広島地方裁判所 昭和43年(ワ)1260号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、原告主張事実(原告が訴外会社の被告に対する定期預金債権八〇〇万円の内二一〇万七九二二円についての差押、転付命令の発令、送達)は当事者間に争いがない。
二、被告は右命令によつては被差押債権が特定しないと主張するので検討する。
右差押、転付当時訴外会社が被告に対し別紙1表の定期予金債権八口を有していたことは当事者間に争いがなく、この場合前記命令によつては差押、転付の対象が特定しないものとして効力がないものといわざるを得ない。なお、右命令だけで八口の債権中支払期日ひいては預入期日の順序に従つて差押・転付額に満つるまでの分について差押、転付の効力を生ずるものと解することはできない。
この点につき原告は被告のした別紙3表1の相殺により特定することとなるといい、被告の右相殺を決定した時期が昭和四三年八月一〇日であることは被告も認めているところであるが、<証拠>によれば、被告から金員を借り受けた者は一定の場合に債務の期限の利益を失い、借主の被告に対する預金債権等は前記債務と期限如何にかかわらず通知を要しないで被告の定めている方法で対当額で相殺されても異議がない旨の特約が存在していたことが認められるが、右に通知を要しないと定めてあるのは相殺の前に特別の通知を要しない趣旨と解するのが相当であり、民法五〇六条一項の規定を排除して右場合に被告の訴外会社に対する相殺の意思表示なくして当然に相殺の効力が生ずるものとしたとは認められない。<証拠>により認められる本件預金債権についての根質権設定契約の内容によつても右認定を左右しがたい。そうすると右相殺も訴外会社に到達して始めて効力を生ずるものであり、本件命令の送達と右相殺の意思表示の到達の日が共に昭和四三年八月一二日であることは当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、後者の方が時間的に遅れていることが認められるし、更にこの相殺後も別紙1表の5ないし8の四口計五一四万四四五二円の定期預金債権が残存しており、本件命令の八〇〇万円より少額であるかその内どの二一〇万七九二二円の債権が差押、転付となるかが特定しないことは右相殺前と同様である。(辻川利正)